そこでようやくはっと我に返る。
慌てて離れようとすると、意外にも簡単に楠木から離れることができた。
……最悪だ。
完全に抵抗をやめていたから、楠木の力が緩んでいたということに私は気づいていなかったのだ。
キスする前に逃げれたというのに。
それだけ楠木のペースに呑まれていて、余裕なんてさらさらなかった。
急いで自分の席へ行くと、楠木に話しかけられる前に教室のドアが開く。
「おっ、まだ残ってくれてたのか。
二人ともありがとうな」
ドアから顔を覗かせたのは担任の先生で、タイミングが良かったなと心の中で感謝する。
できればもう少し早く来て欲しかったのだけど、欲は言わない。
文化祭委員の担当の先生はまた違う人のため、私が出席してないことを知らない様子だった。



