これも全部、楠木の罠だとわかっているのに。
手つきすら優しくて、抵抗しても逃れられないなと悟る。
いや、もしかしたらそれは言い訳かもしれない。
もうすでに私は楠木の思い通りになっていた。
それ以上優しい眼差しを向けられると、きっと私が私じゃなくなってしまう。
どうしても楠木には嫌い以上の感情を抱きたくなくて、逃げるようにぎゅっと目を閉じる。
ドキドキしてしまうのも、本当に悔しい。
何もかも楠木の容姿がいいせいだ。
急に甘く優しくなるせいだ。
この二重人格野郎めと、心の中で毒を吐きながらその時が来るのを待った。
そして楠木の息がかかった時、さらに目を閉じる力を強めた。
キス、される。
そう思った瞬間……まるでそれを断ち切るかのように足音が教室の外で響いた。



