そんな私の気も知らないで、楠木に顔を上げさせられる。
視界に映るのは綺麗な顔をした楠木の姿。
その表情はどこか楽しそうで憎たらしい。
「そんな顔されたらやばいんだけど」
そんな、顔…。
私は今どんな表情をしてるの?
自分でもわからなくなる。
「田城」
不意に楠木が私の名前を呼んだ。
今までお前呼びだったため、一瞬だけドキッとしてしまう。
「な、なに…」
「ほら、諦めて目閉じてみ?」
ああ、ずるい。
ずるすぎる。
今まで強引だったくせに、急に優しい口調になって、表情まで優しくなって。
胸が高鳴らないはずがなかった。
ドキドキと鼓動が速くなる。
どうせなら最後まで強引だった方が良かった。
ふっと楠木が笑う。
その微笑みさえも優しくて、どこか色っぽさすら感じられた。



