その時。
ふっと、楠木が小さく笑った。
途端に危険を感じて逃げようとしたけど、すでに遅くて。
それは楠木が仕掛けた罠だった。
「何逃げようとしてんの?」
「あんたが危険だからでしょ…!」
「じゃあ伝わったわけだ?」
「伝わってない!」
昨日の出来事が一瞬のうちに脳内で再生される。
「いい加減諦めて俺の女になれって。
絶対お前は俺のものになるんだから」
どうしてそう言い切れるのかが不思議で仕方がないけど、それよりも先に逃げることが優先だ。
さっき楠木の言葉で泣きそうになった自分を恨みたい。
楠木の真の目的は、こっちだったのだ。
「第一楠木の彼女になるっていうのがお礼だなんて、釣り合わなさすぎでしょ!?」
絶対に折れてやらない。
たとえ偽りの恋人関係だったとしてもごめんだ。



