冷たい彼の溺愛は、2人きりのときに。




「気にしないで。
とっくの昔に吹っ切れてる」



そんなの嘘に決まってるけど、弱さを見せたくない。



弱いところを見せるのはどうしても嫌だった。
特に楠木の前でなんて、尚更。



中学の私を知ってるし、なんなら私とは逆の存在にある人だから。



このまま深入りされてしまえば、本当に泣いてしまいそうな気がして。



心の中でこれ以上何も聞かないでほしいと願う。



そして少しの沈黙が流れた後。



「なぁ」



ようやく楠木が口を開いた。
それも私を抱きしめたまま。



つまり、離す気はないらしい。



「何……」
「お礼、欲しいんだけど」


「………は?」



急に話が百八十度変わったものだから、思わず変な声が出てしまう。



これはもう呆然とするしかない。