『斗真は今日用事あって帰るって言ってたけど』



私の目的がわかったのだろう、楠木の言葉に思わず顔が熱くなってしまった私。



だけど楠木はそれ以上何も言うことなく、黙ってまた練習を始めていた。



せっかくだし私も残ろうと思って練習していたのだけど、その日はいつも以上にうまくいかなくて。



一人悩んでいると、なんと楠木に声をかけられた。



『お前、フォーム崩れてる』
『……え…?』



思わず振り返ると、楠木がこちらにやってきたかと思えば、丁寧にフォームを教えてくれた。



斗真もわかりやすいけど、楠木も教え方が上手くて見本も綺麗で。



一瞬で私の悩みが解消され、少しだけ上手くなった気さえした。



『ありがとう』



この時、“ああ、楠木はバスケが本当に好きなんだな”っていうのが強く伝わってきて、なんだか嬉しくなった私は思わず笑みがこぼれてしまった。



『……別に』



それだけ言い残し、また楠木は自分の練習に戻った。



わざわざ教えに来てくれる、そんな楠木は案外優しい人なのかもしれないと初めて思った日になったんだ。