「……さっきから何なの」
キスされたというのに、驚きのあまり怒りや嫌という感情すら通り抜けて冷静になる自分がいた。
「いきなりこんなことしておかしいんじゃない?」
そう言って私は楠木の胸元を押し返すけど、もちろん敵うはずもなく。
両手首をあっという間に楠木の片手によって掴まれてしまった。
「絶対逃がさねぇ」
ゾクッと、全身が震えた。
楠木の瞳に、吸い込まれそうになった。
低いその声に、表情に。
そんな楠木に、悔しいけどドキッと胸が高鳴ってしまった。
金縛りにあったかのように動かなくなって。
今の私は、まるで捕らえられた獲物のようだった。
その瞳を見てまた、バスケをしている時の楠木を思い出してしまう。
まさかその瞳が、視線が。
バスケに対してではなく、私に向けられる日が来るだなんて。
私は想像すらもしていなかった。



