「覚えてたの、全部。
ドリブルの音も、シューズの音も、シュートが決まった時の音も。
仲間の声も、試合のことも、斗真のことだって全部」
忘れようとすればするほど。
自分の中で印象の強いものへと変わってしまう。
「……ねぇ、楠木…」
最低だってわかってても。
目の前にいる、すがる相手に求めるしかなかった。
それしか、方法がなかった。
「この気持ち、全部…忘れたい……助けて…」
いっそのこと全部。
何かに溺れて、忘れてしまいたかった。
涙で歪む視界から、楠木が一瞬切なげに瞳が揺れた気がした。
だけど気づけば背中に手をまわされ、楠木に引き寄せられていた。



