冷たい彼の溺愛は、2人きりのときに。




「ここ、駅に向かう道と全然違うけど、お前って方向音痴?」



「…知らない場所だから、ここ…」



「せめてスマホのマップとか調べろよな。
誰かに襲われたりでもしたらどうすんだよ」



「その時はその時、かな。
別に、仕方ない」



自分でも、おかしい返事をしてるってわかってるけど、考えるより先に言葉にしてしまう。



どうでも良かった。
もしも、とかそういうことは。



ただ、今の私は。
この感情から、過去に囚われる自分から。



逃れたかった。



「…さっき、一瞬バスケしたんだけどね…」



だからかな。
気づけば思ってることを口にしていたのは。



「……ああ」



楠木は軽く返事だけして、私の話を聞く態勢に入る。



その優しさに、今は甘えたかった。