そんなはずないのに。
だって楠木はまだ、あの体育館にいるはず。
だけど確かに楠木の声がした。
そしてゆっくりと、その声に引かれるようにして振り向いてみれば……
確かにそこに、楠木の姿があった。
「どう…して…」
「お前、いきなりいなくなんなよ」
「いや、あの二人に、お願いしたけど…」
涙で頬が濡れ、目も潤んでいるけど楠木はそれに触れてこない。
その気遣いが、すごく嬉しい。
「だってお前、ガッツリ荷物忘れてるけど?」
「あっ……」
本当だ。
私、すっかり荷物置きっぱなしだった。
早く体育館を出たくて、それどころじゃなかったのだ。
「ごめん、わざわざ…ありがとう」
そっと手を伸ばし、荷物を受け取る。
でも、どうしても楠木の顔を見れない。



