冷たい彼の溺愛は、2人きりのときに。




そうだ。
私だってしたいよ、バスケ。



ずっと、好きだったから。



そっと手を伸ばし、ボールを受け取る。



小学生用で小さかったけど、それは確かにバスケットボールだった。



「お姉ちゃん、こっち!」
「ほら、早く早く!」



最終的に引っ張られ、ゴールの下までやってきた。



「あっ、でもシューズないね」
「シュートだけなら大丈夫だよ!」



二人は何が何でも私にバスケをしてほしいらしかった。



私もしたいって気持ちはあったから、一回だけゴールにシュートを放とうと思った。



そしてシュートのフォームに入る。
あとはこのボールを、ゴールに狙えばいいだけ。



それなのに……。



『恵美っ!お願い!』
『十番マーク!』



試合中に聞こえてくる、叫ぶような仲間の声。



『恵美は気持ちが先行しちゃう時があるからな、リラックスが大事だよ』



試合前の緊張してる時に、わざわざ観に来てくれて落ち着かせてくれる斗真の存在。



このボールの感触も、シュートのフォームも、ゴールまでの距離感も、何もかも私は……



覚えてる。