冷たい彼の溺愛は、2人きりのときに。




「…じゃあ始めるよ」
「ああ」



その時ふと、楠木の表情が変わる。
その表情がやけに懐かしく感じた。



男の子だけでなく、周りや私にまでその威圧感が伝わった。



今の楠木に、少しゾッとしてしまう。



そして一瞬の静寂の後、男の子がドリブルを始めた。



男の子の表情も真剣だ。
勝つ気でいる。



だけど…すぐ楠木のペースになってしまった。



行く手を塞がれ、次の手を打とうとする男の子のさらに先を読む楠木。



「……あっ」



そしてあっという間に楠木の手にボールが渡ってしまった。



その瞬間、わっと歓声があがる。



みるのもを虜にしてしまうほどの存在感とプレースタイル。



私もそんな楠木のプレーに心奪われたうちの一人だ。



懐かしい。
楠木はほとんど衰えていない。