「……はよ」
少し不機嫌そうな声だったけど、表情は柔らかくてドキッと胸が高鳴ってしまう。
きっと会うのが久しぶりだからだと、自分の中で言い訳をした。
「お、おはよ…」
問題は、視線を合わせられないこと。
この間あんな恥ずかしい姿を見せてしまって、どんな顔をすればいいのかわからなくなる。
「何かあったのか?」
私の不自然な行動を見て、不思議に思ったのか、楠木が近づいてきて声をかけられる。
「なんでもない…!
うん、なんでもないから…!」
「は?じゃあなんで顔隠して」
「なんでもな…わっ…!?」
楠木の言葉を遮ろうと声を上げた瞬間、突然電車が動き出して体が傾いてしまう。
そんな私を支えるようにして、楠木が抱きとめてくれた。
「……朝から騒がしすぎ、危ないだろ」
ぐっと近づいたその距離に、ただでさえ暑いというのにさらに全身に熱が巡る。