冷たい彼の溺愛は、2人きりのときに。




「何笑ってんだよ、気持ち悪い」
「別に?なんだか気分がいいの」



久しぶりかもしれない、こんなに気持ちが軽いのは。



そんな私の隣にいるのは、斗真じゃなくて楠木だって考えたら不思議だけど。



家から駅までの道も、何回か斗真と歩いたことだってある。



まだ中学生だった私たちは、手をつなぐのも緊張していたなぁって思い返せば懐かしくもあり、やっぱりまだどこか胸が苦しくなる。



だけど前みたいに、いつまでもネガティブな思考になるのはやめようと思った。



だから堂々と前を向いて歩こうとした、その時。
突然楠木が足を止めた。



「……楠木?どうし…」



「ここが斗真くんの地元なんだね!」
「そうだよ、あまり活発なところじゃないけど」



久しぶりに聞く、その覚えのある声に心臓が嫌な音を立てた。



さっきまで軽かったはずなのに、突然ズシリと全身が重くなる。



そう現実は甘くなかったのだ。