冷たい彼の溺愛は、2人きりのときに。




「お前、後で覚えてろよ」
「あっ、怒った」



どうやら劣勢になるのは嫌らしい。



けどこの後は電車で帰るだけだし、特に危ないこともないだろうと私は安心していた。



それからお互い食べ終え、店を出ようとしたのだけど……。



「ちょっと、なんであんたが全部払うのよ」
「なんとなく」



「あんたに借りなんか作りたくない。
自分の分は払わせろ!」



楠木が全部お会計をしてしまったのだ。
最悪。



楠木に奢ってもらうだなんて、絶対嫌だ。



「お菓子くれたお礼」
「それじゃあ私がお礼した意味がないじゃん…!」



「気遣わせたの俺だろ」
「それはちが…わっ……!」



また楠木は会話を強制終了させ、私の手を握って歩き出す。



「手離せ…!」
「帰るぞ」



「周りの視線が痛い!」
「そんなの気にしなかったらいいんだよ」



もしかしたらこれが、さっきの仕返しなのかもしれない。



それからも抵抗しようと試みたが、結局楠木には敵わず。



駅に着いて改札を通るまで、ずっと手を握られていた。