「じゃあ、えっと…送ってくれてありがとう」
お礼を言ってから家の中に入ろうと、楠木に背中を向けて一歩足を前に出した時。
「…田城」
彼が私の名前を呼んだ。
「な、に……」
名前で呼ばれるのはあまりなかったから油断して振り向くと、楠木の手が私の頭の後ろにまわされ、そのまま引き寄せられる。
そして唇を塞ぐようにして重ねられた。
「……っ」
一瞬で熱くなる顔。
そんな私を見て、唇を離した楠木が笑う。
「教室で未遂だったから」
それも、意地悪そうに。
やっぱり、嫌いだ。
楠木は楠木のままだったのだ。
「…このバカ!
やっぱりあんたなんて大嫌い!」
そうきつく言い放ってやり、私はそれ以上楠木の方を一切向かずに今度こそ家の中へと入った。