「恵美ちゃん…?
楠木くん見てどうしたの?」



「あっ、えっと…なんでもない。
ごめん、ぼーっとしてた。


楠木はね、今みたいにクールな感じだったよ」



陽菜が不思議そうに私を見ていたから慌てて笑顔を作る。



忘れろ、もう過ぎ去った過去なんだから。



「そうなんだ。


でも他の子が言ってたんだけどね、楠木くんってバスケで有名だったんでしょ?」



きっと、陽菜は何気なく言ったつもりだと思う。
むしろそこまで気にも留めていない話。



だけど私は固まってしまう。
全身が氷のように冷たく温度が下がった気すらした。



「そうだね…すごく上手かったと思うよ」



「やっぱりそうだったんだ。
楠木くんがバスケしてるところ見たことあるんだね」



見たことあるも何も、同じバスケ部だったから自然と見ることになったよ、なんて言うはずがない。



そう、私はずっと隠してる。
自分が元バスケ部だったってことを。



それに言うつもりもないし、言わなくても誰も損や得をしないのだから尚更言う必要がなかった。