全てを思い出したのは、小学生のある夏の日のことだった。



その日は、なにやらドタドタと慌てたような足音を目覚まし時計代わりに目が覚めた。

いつもは静かな朝の時間帯に、扉の向こうでは何をやっているのだろうか?
と、興味が湧いたところ、部屋の扉が静かに開き、数日前からうちに泊まっている祖母が部屋に入ってきた。


「おばあちゃん、なにかあったの?」


私が問うと、祖母は笑みを浮かべながら、私の髪を撫で、


「新しい家族が生まれそうなの。みずきちゃんは、いい子でお留守番して、ママを応援しようね」


と言った。私は、素直にうなずいたところで、ふと何かに違和感を感じた。

自分ではその違和感が何かわからず、首を捻っていると、祖母も同じように首を捻っていた。


「おかしいわねぇ。いつものみずきちゃんなら、『なかまはずれにしないで!』なんて言って素直にうなずいたりしないんだけど・・・」


その呟きに、私は違和感の正体に気がついた。

昨日までの私なら、たしかに祖母の言う通りに騒いでいただろう。
しかし、今ではそんな気にはなれなかった。

たとえ今騒いだところで、母はすでに病院に運ばれているだろうし、おそらく父か母に私のことを頼まれているであろう祖母に迷惑はかけたくなかった。

そしてまた浮かんでくる、『自分はここまでしっかりとした子供だっただろうか』、という違和感。