「バ……ッカじゃないの〜、ほんと、くだらないっ」
六限目は、苦手な数学の授業だった。
謎の公式と、わけのわからない数字が並んでいる黒板は、子守唄よりも眠気を誘う効果がある。
「ねぇ、ちょっと美織。僕の話、聞いてるの」
「聞いてるよ……めちゃくちゃ聞いてる……」
騒がしい放課後の教室に、たっちゃんの呆れた声が木霊した。
私が教科書とノートを鞄に詰めながら相槌を打てば、今日もメイクに余念のない親友は、特大の溜め息をついてみせた。
「ハァ〜〜〜。それで結局、昨日もその変な奴に会ったんでしょ⁉ なのに、今日は家に帰ったらテレビ電話⁉ ほんと、ありえない! 考えられない!」
キーッと効果音でもつきそうなくらいに声を上げたたっちゃんは、ネイビーに染められた前髪をかき上げる。
ユウリくんに恋愛指南書を拾ってもらって、書いてあることを実践しようという約束をしてから、今日で三日目だ。
拾ってもらったのが一日目。
そして昨日はレッスンを実践するために、ふたりで近くの公園に行き、お互いのことを話した。