「ハァ〜…。逆に、くだらない以外の感想が思い浮かばなくて困ってるんだけど」


ピシャリと言い捨てたナルは、もう興味をなくしたように手元に開いた冒険漫画に目を落とした。

手足が伸びる少年が大活躍するその漫画は、先輩たちから代々受け継がれ、このクラスの学級文庫に紛れてロッカーの上に常備されている。


「例えば、くだらない以外で、どんな感想を言えばいいわけ?」

「そ、それは……っ、例えば、もっとこう……」


文句を言いかけて、言葉を止める。……いや、正確には、続く言葉が出てこなかった。

なぜならナルの言うことは正しくて、俺の話を聞いたこのクラスの大半の奴らは笑い転げるか、今のナルのように「くだらない」と呆れるに違いない。


「で、でも……。本当に昨日は、そうするだけで精一杯だったんだよ。だって、あの子……ミオとの接点を作る方法が、他に思い浮かばなかったから」


椅子に後ろ向きに座り、背もたれに乗せた両腕に顎を乗せた俺は、不貞腐れながらそっぽを向いた。

すると視界の端で茶色がかった髪がゆらりと揺れて、ビー玉みたいな茶色い瞳が真っすぐに俺を射抜く。


「だからって、そんな恋愛指南書の中身を実践しようってことにたどり着くかよ。……っていうか、そんな話にホイホイつられて承諾するその女もどうかと思うし、その女も色々大丈夫?」

「……っ、ミオのこと、悪く言うなよ! 相手がお前でも本気で怒るぞ!」


つい、力任せに机を叩いて立ち上がった。

突然声を荒げた俺に対してクラスの数人が何かあったのかとこちらを向いたけれど、俺の相手がナルだとわかると、すぐにまた日常の輪の中に戻っていく。