ぐっと胸が締めつけられるような、変な感覚になった。
途端に不安が押し寄せてきて、振り向こうとしたが
「前を見てて」
と釘をさされた。

「お、お、お父さんはなんて言って…」

ギュッとポールを掴む手に力が入る。
父が小太郎さんを指名したはずなのに、彼になにかあったのだろうか。

「警視総監の命令だから、僕は従うしかない」

言葉だけを聞くとすごく冷たいのだが、ガラスに映る彼の表情があまりにも浮かなくて、“守秘義務”という強い縛りが頭をよぎった。

『言えない』のだ。

物分かりのいいふりをしなきゃ。
迷惑をかけてはいけない。
彼と私では、立場が違うのだから。

息を深くついて、うなずいて見せた。

「分かりました」


ちゃんとしなくては、ちゃんと。
私だって永遠に彼に守ってもらうなんて、そんな夢物語を描いていたわけではない。

別に彼がもう二度と来ないというわけではないのだから。

「ごめんね」

今日、何度言われたか分からない彼のその謝罪が、どんどん重いものになってゆく。
鬱々とした気持ちを抱えたまま電車の揺れに身を任せた。