電車はそこまで混んでいなかったけれど、座れるほどでもなかった。
ドアの付近に立って、ポールをつかんでおく。

小太郎さんの顔が窓ガラスに反射してよく見える。
私の後ろに立っていて、目は伏せられていた。
今朝の鬼塚さんの姿を思い出してしまった。

ふふ、と思い出し笑いをしていると、不思議そうに首をかしげるのが分かった。

「朝、鬼塚さん面白かったです。満員電車なのに、不可抗力だとしても私にも触らないように頑張って踏ん張ってくれて」

「─────あいつはそういうやつだよ」

強面の外見からは想像もつかないほどの、超がつく真面目なひとだった。彼の一挙手一投足がインパクトが強すぎて、自然に綻んでしまうような。

「そのまま、前を向いたまま聞いてね」


不意に声色が変わり、なんとなく小声になった小太郎さんの意図は分からないまま、はい、と窓ガラスに映る彼を見つめた。

「とても勝手だけど、これから僕だけが美羽さんの護衛をするのは難しくなったんだ。鬼塚くんも来てくれるけど、もしかしたら誰かまた別な人が来るかもしれない」