形勢逆転とまではいかないが、今度はこちらが感情的になってしまった。これでは父の思うつぼなのは分かっていたのに。

父はドヤ顔で、コーヒーをブラックのままクイッと飲むと、カチャンと音を立ててソーサへと戻した。


「いま一度、お前に警護をつける」

「─────やめて!!」

それは、もう悲痛な叫びだった。
だが感情論みたいなそんなものは父には通用しない。

「だめだ。今回のことで身にしみて分かったよ。お前はまだまだ子供だ」

「お父さん!私、もう二十五だよ?」

「分かってる」


分かってないじゃない!

二十五にもなって、父親に守られている箱入り娘なんてこの世の中にいるのだろうか?いや、いないはずだ。
よっぽど特殊な家庭でない限り。

…いや、私の家は、特殊……なのか?


言い出したら聞かない性格なのは承知のことなので、半分諦めてソファーの柔らかな背もたれに身をあずける。


「…どのくらいの期間?」

この際、SPをつけるのはいいとしよう。
たしかにクスリの売人と接触してしまったのは私のミスだ。
問題は、期間である。

「そうだな、まず半年。何もなければ一年で外してやる」

「無理!何言ってんの!?そんなんやってたら、私、一生結婚できないって!」

「しなくていい!そんなもん!」


信じられないほど拗ねた表情で口をとがらせて腕を組んだ父が、ぷいっと子どものように顔をそらした。
その仕草の憎たらしさたるや。表現のしようがない。

「は?結婚しなくていいとか正気なの?孫の顔は!?」

一瞬、父の目に迷いの色が浮かんだものの即座に消え失せた。

「ど、どこぞのわけの分からん若造に娘をくれてやるくらいなら、一生独身を貫いてくれた方がいいんだ!」

「バッカじゃないの…」


呆れて、呆れて、呆れ果てて。
どこまでも子供じみた父親の顔を、絶望的な目で見つめるしかできなかった。