「本当は杉田くんと二人に行ってもらおうかと思ってたんだけど、杉田くんその日どうしても大ファンのアーティストのライブがあるみたいで」

「あぁ、なんでしたっけ…大谷ドミソ」

彼に何度も何度もオススメされたアーティストなもので、さすがに名前だけは覚えてしまった。

「そうそう。だから今回はシフトの関係でちょっと人員確保もしたいから、美羽ちゃんに行ってもらいたいなって思ってたんだけど、どう?」

マキさんは私が断らないのは分かっていて、こうして言ってくるのを察した。
もう新人ではない私の仕事のステップアップする機会をくれているのだ。

「もちろん行きます!」

「そう来ると思った。その画面そのままあとで美羽ちゃんに転送しておくね」

「はい。よろしくお願いします」

ひとつ返事で引き受けた今回の件は、なんとなく社会人として少しずつ階段をのぼっているような感覚で嬉しくもあった。


仕事終わりに自分のスマホを見ると、マキさんから早速詳細が送られてきていた。

『この日のシフトは調整しておくね』という文面も添えられていた。
開催されるのは来週末の金曜日夕方から。
大手出版社も来るようなので、これは私もスーツを出しておかなくちゃと思いを巡らせたのだった。