「ごめんなさい。本当にごめんなさい」

夕方に現れた小太郎さんは、鬼塚さんと交代するなり謝罪してきた。
なんの謝罪なのかは、もちろん分かっている。

私は彼の謝罪には反応せず、パタパタと店内掃除に勤しんでいた。

「美羽さん」

パタパタをやめて、今度はハンディモップを棚の上の手が届かないところに滑らせる。

「怒ってるよね?」

「いいえ。別に」

かろうじて出た言葉は、かわいげの欠片もない。
そして考えるよりも先に次から次へと不満が口をつく。

「約束なんて、破るために存在してますもんね」

「ごめんね。なんとか朝には間に合うように頑張ったんだけど、どうしても気になることがあって」

言い訳にはなるけど、と付け加える彼の顔は完全に困り果てていた。
初めて見るかもしれない、反省しきりの表情。

「鬼塚くん、いいやつだったでしょ?」

「いいひとでしたけどそれとこれとは話が別ですよ!」

「そうだよね、ごめん」


それきり小太郎さんは私には話しかけてこず、サラリーマンに扮して少し離れたところで雑誌を立ち読みし始めてしまった。

脚立にのぼって、上からの景色で彼を横目で見やる。
昨日と同じスーツに、昨日と同じワイシャツ、ネクタイ。たぶん、彼は帰宅していない。
もしかしたら仮眠はとっていても、ちゃんと寝てはいないのかも。