ずーっと堅苦しい鬼塚さんを見ていると、こちらも疲れてしまうのでそう言ったのだが、彼はぶるぶると首を横に振った。

「けけ、け、警視総監の大切な娘さんにそんなご無礼は」

「そういうのすごいイヤなのに」

不満げに訴えても、どうしても彼はそこは譲ってくれなかった。


「鬼塚さんは…なんていうかものすごく強そうだね。どんな悪党も秒で倒しちゃいそう」

スーツのジャケットを着ていても分かる、ゴリゴリのマッチョマンな彼の分かりやすい筋肉っぷり。
梨花は好きそうな筋肉だな、と眺めてしまった。

鬼塚さんはパツンパツンな自分の腕を見下ろして、いえいえ、と困ったように強面の顔を崩す。

「自分の趣味が筋トレなだけで!見せかけなんです」

見え透いた謙遜だなぁと、こちらも吹き出した。

「自分はいざってなると全然ダメで。訓練でも三上さんに簡単に投げ飛ばされてしまいますし」

「─────え?」

体格差がとんでもなくあるけれど、なにかの間違いでは?
身長は同じくらいかもしれないが、身体の厚みが違うではないか。記憶違いなのでは?


はて?と首をひねる私に、鬼塚さんは羨ましそうに「マジ尊敬ッス!」と目を輝かせた。

「柔道のシニア全日本選手権大会で、過去に2階級制覇してますもん!」

「誰が?」

「三上さんです」


いっとき、私と彼とあいだに沈黙が訪れる。


「えーーーーーーーーー!?」

私の絶叫は、彼の威勢のいい声よりも、はるかに大きかったに違いない。