私がちゃんと言われたことを守るまで彼は断固として部屋の前から動かなそうなので、大人しくしっかりとドアを閉め、鍵をかける。
そして、アドバイス通りに内側から二重ロックもかけて、ドア越しに「これでいいですか?」と言ったら、向こうから押し殺したような笑い声がした。

「合格です」

「……小太郎さん」

顔を見なくてもいいのなら、言える。

「さっき、私の見たことのない顔をしてました」

「さっき?」

「警察の人たちと話してるとき」

ドアにそっと手を添えると、そうかもね、と彼の声が聞こえた。
どんな顔をしているのか、見えないぶん、声でもはかりづらい彼の感情がもどかしい。


「いつか美羽さんに本当のことを話せる日が来たら、僕もいま思ってることを全部伝えようとは思ってるよ」

「本当のこと?」

「ただそれは…いつになるかは分からないんだけど」

どういうこと?
聞きたいことは山ほどあったけれど、たぶんこれ以上話していたら長引いてしまって彼の仕事に支障をきたしそうだ。

「せっかちだから無理。明日聞きたいです」

「あはは、さすがにそれは─────要検討だな」

コンコン、とドアを優しくノックされたので、私もコンコン、とノックを返した。

「絶対、明日の朝、いてくださいね。約束してください」

「うん。約束するよ」

コンコン、とまた聞こえたから同じく返したけれど。
そこから彼の気配は消えた。


小太郎さんは音もなく去っていった。
事件現場に戻っていったのだろう。

スマホで時間を確認すると、深夜帯だった。
分かってはいたけれど、警察官は、とてもたいへんな仕事だ─────

ため息をつくと、ドアにこつんと額をつけた。

「顔……見ればよかった」


明日の朝、ちゃんといつも通りにこの部屋の外で会えますように。