まだ事態は収集していないようなのだが、おもむろに小太郎さんが私のところまでやってきた。

「まだかかりそうだから、いったんマンションまで送るよ」

「待ってます」

「いや、もう時間もかなり遅いから」

腕時計を見下ろして首を振る彼に、迷惑をかけたくない一心で私も食い下がる。

「だってマンションはちょっと歩けば帰れるんだし、仕事の方を優先してください。こんな時くらい、私はひとりでも」

「絶対にダメ。こんな時だからこそ、ひとりって危ないんだよ」

その静かな言葉に、強固な意志を感じた。
もうそうなると、彼の言う通りにするしかない。


もしかして、彼がカフェを出てから私の後ろを歩いていたのは、この犯行を予知していたとか?
仕方なく言われた通りに私は彼に送ってもらってマンションへ帰ることにした。

当然と言えば当然なのだが、特になにか起こるでもなくマンションに着いた私たちは、オートロックを開けてマンション内に入り、エレベーターに乗り込む。

「僕は君を送り届けたらまた出るから」

エレベーターは六階へと上がってゆく。
小太郎さんが予想通りの言葉を口にしたので、私は半ばクイズに当たったような感覚で「分かってます」とうなずいた。

「心配しなくても、出かけたりしません」

以前の私なら、これはチャンスだと出かけたかもしれないけれど。