「ば、ば、ば……」
わなわなと握りしめた両手の拳を震わせて、憤然と私を見下ろす五十代半ばの白髪が混じった父親の姿は、いつもよりもなぜか憔悴しきっていた。
私はというと本革張りの高級そうなソファーに腰を落ち着けて、さっき綺麗なお姉さんが置いていってくれた淹れたてのコーヒーに口をつける。
「ば、って何?お父さん」
冷静な娘のこの態度が、父親の堪忍袋の緒を切った。
「ばかもんっ!親の心子知らずとはこのことだっ!」
「やめてよ、外に聞こえるよ、そんなに大きな声出したら」
「そ、そんな短いスカートをはいて!どうぞ襲ってくださいと言っているようなもんじゃないか!!」
「ファッションにケチつけるのはやめてくれない?」
さんざん家でも言い合う内容の話を、どうして私は父親の職場でもしなければならないのか。
……とはいえ、今回の件はたしかに私に非がある。それは認めなくてはならない。
「迷惑かけたのは謝る。ごめんなさい」
「……本当に心臓が止まるかと思ったんだぞ」
「…………ごめん。うかつだった」
興奮して立ち上がっていた父がようやく座ってくれたので、私も素直に反省の色を浮かべた。
しかし、ただでは済まない性格の父のことだ。
予想は立てていたことではあったが、さっきまでの疲れた顔から厳しい顔つきへ豹変すると、ふんと鼻を鳴らした。
「プライベートを充実させたいから警護を外せと言ってきたのは、美羽だったな?」
「…………なによ、取り調べのつもり?」
こんな時にこんな場所で本領発揮するのはやめていただきたい。
「習い事でも始めようかって言っていたじゃないか。あれはどうなったんだ?」
「あのねえ、すぐに習い事どれにするかなんて決められるわけないでしょう!社会人だもの、金曜日くらい羽を伸ばして友達とお酒を飲みに行くくらい普通なんだよ!?」
「約束が違うぞ。規則正しい社会人生活を送るからというから信じていたのに……」
「自分に都合よく解釈しないでよ!」



