小太郎さんが意図的に私にチラッと視線を送ってきたのは理解できた。
─────これは助け舟だ。

「私も、お会計お願いします」


勢いに任せてバッグをつかんで立ち上がると、隣にいた風見さんが残念そうに

「もうお帰りなんですか?」

とつぶやいた。

「電車の時間が迫ってて」

「じゃあ、また会うことがあったらその時に連絡先を」

余裕のある表情でそんなことを言い放つ彼に、私は何も返せなかった。
また偶然に会うことなんて、あるのだろうか?

曖昧な表情をしていると、
「約束ですよ、美羽さん」
と少し強めの口調で念を押された。

「あの……、はい……」


急展開すぎて、頭が追いつかない。
とりあえずその場で急いでお会計を済ませ、先に出ていった小太郎さんを追いかけるようにお店を出た。


お店の外に出ると、少し離れたところで小太郎さんが待っていた。
急ぎ足で駆け寄ると、

「今日はイケメンにモテる日なのかな?」

と、少し楽しげに彼に言われて、それも腹立たしかった。

「面白がってませんか?」

「ちゃんと助けてあげたじゃない」

「もっと早くお願いしたいです」

「それじゃあ不自然でしょ」


いつもの彼なら私と並んで歩いてくれるのに、今日は違った。
少し後ろを歩く。
不自然なのは小太郎さんも、だ。

なんだか、とてつもない違和感を覚える。