─────警察官に恋をするのは絶対に嫌。
そのこだわりの根底は、まさに小太郎さんが言ったことそのものだ。
なにが起こるか分からない。いつどうなってもおかしくない。

緊急で呼び出しがあって出かける父。
心配そうに帰りを待つ母。いつも家で見てきた両親の姿が思い出される。

小太郎さんを好きになるはずじゃなかった。
好きになっちゃいけない。
そう思えば思うほど、謎めいた彼に気持ちが傾く自分に目を背けていた。

「もう!どうしてくれるんですか」

溢れ出る涙をハンカチで押さえてそう言うと、ふわりと肩を抱き寄せられてそのままもう片方の腕が伸びてきた。

「責任を取って、泣いてる姿を隠してみる」

今までにないほどに近い距離で耳元でそう囁かれ、ほどよい力で抱きしめられていることが分かる。
これは逆効果だ、とさらに赤くなっているであろう顔をハンカチで覆った。

…ホームの片隅だから、誰も見ないで。


「美羽さんは思ってたよりも小さいんだな」

そう聞こえて、もう私は一切顔を見せられなかった。

「教えてください…」

「ん?」

「今日お会いした椿さんとは、どのような関係…ですか」

ぱっと彼が私の顔を確認するのが分かったが、私は鉄壁ガードとでもいうようにしっかりとハンカチで顔を覆っている。
それを見たからなのか、あははという笑い声。

「僕からすれば、椿ちゃんは友達であるタケルの恋人。それだけ」

あっさりとした答えに、肩の力が抜ける。
予想していたとはいえ、彼の答え方があまりにも他人事だった。

そして、ようやく止まりつつある涙を拭いながら、
「もう二度と言わないで」
と、ハンカチで押さえていない方の手を、彼の肩におそるおそる回した。

「死んじゃったら、なんて絶対に」

「うん、分かった。呪われちゃうもんね」

「もうー!!」

ポカッ!と彼に回した手で肩を叩いたら、ぎゅっと強く抱きしめられて困惑した。
これまで感じたことのない、なにかあたたかいものが心の中に流れてくる。

これは、なんだろう。

「小太郎さんは、…思ってたよりも大きいです」


私の小さな声は、彼に届いたか。
電車が到着して大きな音が響いているから、聞こえていないかも。

─────好き。

今にも口に出してしまいそうな気持ちを、今はしまっておいた。