箱入り娘に、SPを。

なにかを考えているような、でもなんと伝えたらいいのか考えているような、顎のあたりに手を添えて、首をかしげながら歩いている。

「誰にも頼らず生きるのって難しくない?」

「強いひとなら難しくないですよ」

「僕、幼い時に両親を事故で亡くしてて」


思わぬ話に、驚いて足を止めてしまった。

そのせいで後ろを歩いているサラリーマンにぶつかってしまい、すみません!と謝るはめになった。
私と一緒になって謝ってくれた小太郎さんが、歩こうよ、と手招きする。

「祖父母ももういなかったから、父方の叔父に引き取ってもらって、警察学校まで行かせてもらって。その叔父は、さっきのタケルが勤めてる会社の社長やっててさ」

「……すごい。色々繋がってますね」

両親が他界しているという衝撃が、まだ抜けきらないまま相槌をうつ。
どんな反応をしたらいいのか、分からない。

「両親の事故の原因になったひき逃げ犯を捕まえてくれたのが、ツネさんで」

─────運命ってやつだ。

次から次へと出てくる、小太郎さんの内情は私の予想を超えていた。

「ツネさんがいなかったら、僕は警察官になろうとは思ってなかったと思うんだよね。そして、警察官になりたいって思った僕を支えてくれたのは叔父さんだから。みんな誰かのおかげで、今こうやって自分が生かされてるんだと思ってるんだ」

駅のホームに降り立った時に、ようやく彼の言いたいことが分かった気がした。

生ぬるい風がそよそよと吹くホームで、いかに自分が甘やかされた環境にいるのかを思い知る。
当たり前のように生活できていると思い込んでいるに過ぎないのかもしれない。


「私は…恵まれてるんですね」

ぽつりとつぶやくと、小太郎さんがふわりと笑った。

これで、実家での私の父と小太郎さんの会話の謎が解けた。
父はおそらく、彼の両親のことも知っていたのだろう。二人の間に流れた、悟り合うような空気感はこれだったのだ。

彼からしてみれば両親に愛されて育ったというより、叔父さんにお世話になったという気持ちが強いのだろう。

知らないことばかりだ。