セレクトショップというだけあってそこそこのお値段はしたが、想定内だった。
いったんカーテンを締めて着替えていると、店内で話す二人の会話が聞こえてきた。

「二人はどうやってデートしてるの?タケルの休みに合わせて?」

「ううん、残念ながら私も時期によっては休みを合わせられないんで、その時によって全然会えない時もあります」

「その会えない時間で愛が育まれるわけだ」

「……そうやって他人にはいくらでも言えますよねぇ三上くんは。私たちのことよりも、あの子は恋人じゃないの?」

最後の、椿さんのその一言だけはよく聞こえた。

意図せず彼の答えを聞きたくない一心で、急いでカーテンを勢いよく開けた。

シャッ!という音に合わせて飛び出してきた私を見て、椿さんが大きい瞳をぱちくりさせて、そしてうふふ、と笑うのだった。

「かわいい恋人が出てきたわよ」

「─────守秘義務があります」

私がなにか言う前に小太郎さんはそう答え、さっと身をひるがえして椿さんから逃げるようにその場から離れてしまった。


「守秘義務ねぇ」

「あ、あのっ…」

オレンジのワンピースを抱えたまま、どの角度から見ても美しい椿さんに切り出そうとしたものの、それ以上は言葉が出てこない。

『小太郎さんとは、どのような関係ですか?』

「このワンピース、買います」

本当に聞きたいことは言えなくて、持っていたワンピースを彼女に渡した。

「かしこまりました。ありがとうございます!今、お包みしますね」

綺麗な笑顔で受け取った彼女を、ぼんやりと見つめる。
手早く、でも丁寧に、魔法のようにワンピースをたたんでやさしく包んでゆく。

これくらい大人の女性になれたら、少しは彼の恋愛対象になるのだろうか。

爪まで綺麗な椿さんは、抜かりなく完璧な女性に見えた。
ネイルもなにもしていない自分の指が、ちょっと寂しくなるくらい。