どうしよう、とこっちはものすごく真剣に悩んでいるというのに、梨花はとても楽しそうだった。
笑いがこらえられない、とでもいうように肩まで震わせている。

「ちょっと、聞いてる?」

「聞いてる!聞いてるじゃん!だって、恋する美羽がこんなに可愛いなんて知らなかったんだもん!ていうか、顔はしっかり可愛いんだから自信持ちなよ!」

「ねぇ、そうやって茶化すのやめてくれない?」

「茶化してないって!」


別に今までだって好きな人くらいはいた。
それは梨花ももちろん知っている。

学生時代に、好きかもと思った人はいた。
もしかしたら両想いになれるかもしれないと思える人もいた。

でも、だがしかし、だけど。
やはりついてまわるのは常に私の後ろにいる、警護についてくれていたSPの存在だった。

この人が好きかもと思った人には、それは当たり前なのだが、ことごとくそのSPの存在が疎ましく思われていたのだ。
告白もしていないのに間接的に振られ、梨花の前で泣いたこともあった。


「今回はわけが違うでしょ。相手がそこらの普通の男の人じゃないんだもの。護衛してくれてる人を好きになっちゃったなら、逆にこっちのもんなんじゃない?」

梨花の言う、こっちのもんとは?
おそらくしっかり疑問が顔に書いてあったのだろう、私の顔を見て彼女が吹き出すのが分かった。

何度も言うが、私は真剣なのだが。
梨花がパタパタと手を振って苦笑いする。

「美羽、怒んないで。ごめんごめん」

「笑わないでよ〜」

「ちゃんと分かってるって。…でも小太郎さんってなんとなく読めないよね」

「そうなの!なに考えてるか全然分からなくて」


優しいけれど、淡々としていて、冷静だし、いつも先回りして動いているし、私なんて相手にはされていないのがよく分かる。
知っているのは、甘党ということだけだ。

「でもさ」と、梨花がここでポジティブシンキングを発揮した。

「分からない人にこそ、直球は効くと思うよ。あなたを知りたいって伝えるところから始めてみたら?まずはそこから!」

そういうものなのか、と納得させられる。
直球というものがいったいどんなものなのか、私にはまだよく分かっていないが。

頑張ってみるよ、と残っていた水を飲み干した。