「ここでいったん動きを止めてー、今度は十秒かけて息を吐いていきますねー」

やったことのない動き、呼吸、ついていくのに必死。
そんな私とは正反対に梨花は楽しそうだった。

余裕だなぁと羨ましがっていたら、彼女はどうやら呼吸なんて講師の指示は無視していたらしい。

「超おもしろいんだけど」

「なにが?ピラティス?」

「美羽が」

どういうこと?と軽く睨んだものの、まったく彼女には響かなかった。

「小太郎さんのこと、好きになっちゃったんだね」


なにかに弾かれるように、私はぐるんっと梨花を振り返り、自覚するほどに目を丸くして彼女を見つめた。

「顔に出てる、顔に出てる」

─────顔が一気に赤くなっていくのが分かる。

「否定しないってことは、ちゃんと自分で分かってるのね?」

梨花に指摘され、違う!と言い切ることもできたはずなのだ。だが、とても不本意ではあるが間違ってはいないので、できなかった。

「ピラティスしながら恋の相談に乗るのはキッツいなぁ」

肩甲骨を動かしていきますーという講師の動きに沿って後ろに腕を引きながら体を反らす。