何の気なしにふと隣を歩く彼に尋ねる。

「小太郎さんは、周りのお友達はけっこう結婚してます?」

「僕、友達ほとんどいないので」

あっ、と失言をしてしまったと慌ててなんとなく自分の口を手で塞ぐ。

「全然、気にしないで。もともとあまり他人を信用しない性格なだけで」

「そんな感じしませんけど。とても気さくだし話しやすい雰囲気出してるじゃないですか」

「じゃあそれは僕の作戦勝ち」

どういうことよ、と心の中でツッコむ。
そんな不満げな私の視線を、彼は華麗にかわす。

「職業柄、たぶん話しやすい方がいいでしょ?」

「じゃあ逆に、本当の小太郎さんはどんな人なんですか?」

「そういえば、同期の結婚式には二度呼ばれたことあるよ」

「…今、ぜっっったい故意に論点ずらしましたね?」


そんなことないよーと笑う小太郎さんは、いつもと変わらない。
この笑顔を胡散臭いと思っていたはじめの頃。

もしかして、出会った時からずっと嘘の笑顔なのだろうか。
そう考えると、本当の彼の顔を見たい気もした。
じつはとても冷たい人なのかもしれないし、じつは誰にも心を許さない人なのかもしれないし、じつは私のことだってどうでもいいと思っているかもしれない。

…チクッ。
胸が痛むのが分かり、なんとなく落ち込む。

本当はこの仕事をどう思っているのだろう。
本当の彼は、私の護衛なんて望んでいないんじゃないだろうか。

ここまで考えて、違うか、と思い直す。

この仕事を引き受けたのは、あくまで警視総監である父に頼まれたからだ。
警視総監の娘だから。ただそれだけ。


「美羽さん?」

急に黙り込んだからか、心配そうに小太郎さんが顔を覗き込んできた。

「あっ、はい」

「どうかした?」

「いえ…。結婚式、どんな服にしようかな〜って」

その場を取り繕うように答えると、彼は怪訝そうに眉を寄せたが、それ以上追求してくることはなかった。