「今度ツネとも会おう」

という父の言葉を最後に、私と小太郎さんは実家をあとにした。

二時間もいなかったのだが、その間に母からのケーキやらお菓子やらたらふくスイーツを出され、私はかなりお腹が満たされていた。
甘党の小太郎さんも、さぞや心が満たされたんだと思っていたが、それは違ったようだった。

家を出てしばらく歩いたあと、ようやく彼が口を開く。

「はぁーーーーー。緊張したーーーーー」

思いもしなかった言葉に、私は「えっ?」と聞き返してしまった。
いや、緊張しているのは分かっていたが、ここでようやくそれが解けたのかと驚いたのだ。

「今さらですか?」

「あのさ、君のお父さん、警視総監だよ、警視総監。トップオブトップ」

繰り返す彼の表情は浮かなかった。

「くそっ、あの有名店のケーキ、味がしなかった」

それそれはとても悔しそうにしかめっ面をしていて、ということはあの砂糖とミルクをたっぷり入れたコーヒーも、何も味がしていなかったのだろうなと想像がついた。

彼には申し訳ないが、私としては幼なじみの結婚式の方が重大である。

「結婚式かあ。友達のは初めて呼ばれました」

親戚のは何度か招待されて出席したことはあるものの、友達というのはなんだか特別な感じがする。
招待状が入ったバッグをなんとなく撫でながら、幼なじみの晴れ姿を思い浮かべてみると、幸せな姿しか出てこない。