先日の痴漢の件を思い出し、それは父の言う通りだとは思った。
日常のちょっとした危険な時に、サッと来て助けてくれるのはありがたい。

いつだったか駅の構内で滑って転んだ時も、そういえば助けてもらった。

だけど、だけど、だけど。
それとこれとは、またちょっと話が違うじゃない!

と、私が言い淀んでいると、母が意外なことを言った。
「美羽の言いたいことも分かるわよ」と。


「お父さんはあまりにも美羽に構いすぎだとは思うし、美羽は美羽で、三上くんに申し訳ない気持ちがあるんでしょう。それは分かる」

「だったらお母さんからも言ってよ」

「お父さん頑固なんだもの〜。お母さんから言ったって変わったこと一度もないわよ?」

がくっ。
思っていたよりも頼りにならない母に、思わず漫画のような落ち込み方をしてしまった。


「─────で?三上くん、美羽はどうかな?」

やっと私が黙り込んだタイミングで父がようやく小太郎さんにもう一度尋ねる。
隣で小太郎さんの背筋が伸びたのが分かった。

「特にこれといった特別なことは何も起きていません」

「そうか!よかっ…」

「ですが」

小太郎さんがチラッと私を見てきたので、なにごとかと見つめ返す。
すぐに視線は逸らされた。

「若干…いえ、かなり、自己防衛力は低めかと思います」

「ちょっと!」

慌てて小太郎さんの腕を引いたものの、彼はちっとも動かなかった。

「周りへの注意力や、危機管理能力が乏しい…というと言い方が良くないのですが、他人を信用しすぎるような気はしています」

「いいよ、続けて」

追い払うように父がシッシッと私に向けて手を払う。
その仕草が無性に腹立たしい。