どっこいしょ、というコトバをよく母が使っていたが、昔は「なんでそんな言葉が出るの?」なんて茶化していたあの頃の自分を平手打ちしたい。
二十五にして、私は「どっこいしょ」の一流の使い手になってしまった。

その言葉は魔法のように、重いものを持ち上げてくれる…ような気がする。

「どっこいしょ…っと」

カートに乗せた新刊が入ったダンボールを、店舗まで運んで店頭に並べる。
古いものは一冊だけ残して片付けてみたり、並べ方を変えてみたり。
地味な作業を何往復も繰り返していく。


しゃがんで作業し、立ち上がろうと「どっこいしょ」と例の魔法の言葉を口にすると、斜め上から

「十二回目」

と聞こえた。

立ち読みしている小太郎さんから、私に向けたものなのだろうが、こちらに視線などまったくよこさない。

小声で「なにが」と言うと、
「今日のどっこいしょの回数」
とぼそりとつぶやかれ、思わず声を上げそうになったのを、気合いで飲み込む。

「こっちは必死なんです」

「手伝ってあげたいなあ、効率よくサクサク運んであげたい」

彼のイヤミは無視し、私は軽くなった台車を押して店舗裏へと逃げた。


守っていただいて、大変ありがたい。
ありがたいけれど、やっぱりちょっとうざったく感じる時もある。

なんてお節介なひとなんだろうと思う時が多すぎる。
こっちは本当に必死だっていうのに。