マンションの六階、私と小太郎さんの部屋は、なんと隣である。
私が一人暮らしするこのマンションの一室を、父が勝手にSP専用で借りているのだ。ゆえに、今までお世話になった歴代の方々も寝泊まりしていた部屋だ。

「今日はお風呂に浸かって温まってくださいね」

さすがに彼のずぶ濡れの肩を見ると心が痛んでしまい、部屋に入る前に声をかけた。

「美羽さんは濡れなかった?」

こちらの声がけよりも、私への心配。
彼は傘を緩くたたんで、濡れたそれをそのまま壁に立てかけていた。

「私は全然濡れませんでしたよ、小太郎さんのおかげで」

「突然どこかへ出かけるとか、さすがにお風呂に入ってる時にされると困るなぁ」

「もう今日は遅いですし、出かけません!」

一時期、彼をどうにか撒きたくて、おやすみなさいと嘘をついて帰宅し、数十分後に出かけてみるというのを試みたのだが。
どうやってバレたのか、あっさり出先に現れた彼に気づいて、撒くのは無理だと悟った。

「じゃあ、また明日。よろしくお願いします」

「うん、おやすみなさい」

「はい、おやすみなさい」


お互いにぺこっと頭を下げ、部屋に入った。


…結局、拳銃ってどこにしまってるんだろう。
なんて思いながら、足元しか濡れなかったパンプスを脱ぐ。

「心がきれい…か」

つぶやいたと同時に、母からメッセージが来ていることに気づいてスマホを開く。

『たまには家に帰ってきてもいいんだよ』

母には会いたいが、父の思惑通りになるもんか!と、大丈夫のスタンプだけ返しておいた。


バタッとベッドに倒れ込み、自分の中に生まれつつある気持ちに困惑していた。
困ったな、どうしよう。

悩ましく目を閉じた。