やいのやいの言っているうちに、なんだか笑えてきて「ふふっ」とこぼれてしまい、バレないように手で口を覆ったが、時すでに遅し。

「やっと自然に笑ってくれた気がする」

小太郎さんはそう言ってくれたが、こっちだって言いたいことは山ほどある。

「小太郎さんこそいつも笑ってるし、本当の顔、見たことないです。いないと思ったら現れたり、神出鬼没で…変な人」

「えっ、初めて言われたかも」

神出鬼没かぁ、と不思議そうにつぶやいて頭をかいている姿は、これが素なのか?という表情でもあった。
そんな彼に、ちょっと申し訳ない気持ちもありながら、ごめんなさい、と謝った。

「こんな小娘の警護なんて、引き受けてくれてるのに。私、いつも文句ばっかり言って。小太郎さんのことは、嫌じゃないです。生理的に無理とか、そんなことは絶対にないです。そう思わせてしまったのなら、ごめんなさい」

「─────君は心がきれいだね」


傘の中で、彼はそんな言葉をつぶやいた。

「なんですか、それ。初めて言われました」

「僕も、初めて言ったよ」

でも、と彼は続けた。

「美羽さんみたいに、ちゃんと思ったことを素直に言えるって、とても大事なんだよ。それはなかなかできることじゃない」

遅い時間、人通りも少ない路地を歩きながら、小太郎さんは笑った。

「だから、僕の言葉も素直に受け取って」

「…ありがとう、ございます」


顔、大丈夫かな。
真っ赤になってるんじゃないだろうか。

ひたすら顔を下に向けてこの場をやり過ごした。