カウンターに戻ってきた由花子さんが、胸をドキドキさせているかのように息を弾ませて私の方へ身を乗り出してくる。

「ねえ!もしかして今のSPって彼なの!?」

「由花子さん!声大きいっ」

慌てて由花子さんの口を塞ぐと、むぐむぐ言いながらうなずいてくれた。

「ごめんごめん、あまりにビジュがいいから興奮しちゃった。今までお父様みたいな年代の人ばかりだったじゃないの」

やっぱり、みんなそう思いますよね。
マキさんたちだって同じことを言っていたもの。
彼が甘党なのは知らなかったけれど。

「虫よけ、だそうです…」

「やだぁ、そういうこと?すごい発想」

由花子さんは信じられないといった顔で嘆くと、お料理を準備しに奥へ引っ込んでいった。


お冷をコクコク飲んでいると、いつの間に来たのか隣に小太郎さんが座っていた。

「うわっ!いつから隣に」

「ここはご家族で来るの?」

こちらの動揺をよそに、彼はなんてことない顔でまたスマホに視線を落としながら聞いてくる。
お客さんはそんなにいないとはいえ、自由に動き回る彼にちょっと驚かされる。たしかに周りはまったく私たちのことなど気にしていなさそうだが。

「昔のことです。もとは母の行きつけで…」

「パンケーキ、美味しい?」

「ここはハズレなしですよ。全部映えます!」

「やったね。タケルに自慢しよ」

嬉しそうにしている小太郎さんに「タケル?」と聞き返すと、

「僕の唯一の友達」

と言い残し、窓際のテーブル席に戻っていった。


唯一の友達…って友達少なすぎない?
とは思ったものの、友達なんて別に多かろうが少なかろうが人それぞれである。

私だってそんなに友達は多い方ではない。
なにしろ昔からSPがそばにいて、たぶん、普通の人が経験するであろうことはあまりできていないからだ。

『美羽ちゃん、ずっと後ろに誰かいるんだもん。遊ぶのイヤー』
と、幾度となく言われてきた。