カランコロンと可愛い音が鳴るドアを開けると、「いらっしゃいませー!」と元気な声が聞こえた。
カウンターには馴染みの由花子さんがいて、私が顔を覗かせた途端に「あら!」とすぐに反応した。

このカフェの店主の由花子さん。
40代後半くらいか、はたまた50代なのか、美魔女な奥様。ショートカットがカッコ可愛い、オシャレで素敵な方である。

学生時代から通わせてもらっていて、梨花と二人でたまに来ることもあるが一人で来ることも多い。
聞き上手で、話し上手な由花子さん。憧れの人だ。

「ちょっとちょっとー、美羽ちゃん!久しぶりじゃない?お父様やお母様は元気?」

「はい…、ご無沙汰してます。父も母も元気です…」

言葉を濁したことで、由花子さんは察したのか「座って座ってー」と促してくれた。

他にもお客さんはいたが、カウンターに座っている人はいない。忙しい時間ではなさそうで、ちょうどよかった。

「ガパオライスセットお願いします」

メニューも見ずにオーダーすると、
「うんうん、アイスティーにデザートもつけるわよね?」
と、もうなんだか「いつもの!」くらいの理解っぷりだった。

「今日は警護の方はいないのね?」

「……」

カウンターに座った私にお冷を出してくれた由花子さんが、黙り込んだ私をきょとんと見つめる。

「そのうち分かります」

わなわなと答えると、彼女は首をかしげた。


と同時に、さっきも聞いたカランコロン、という音が聞こえた。
反射的に「いらっしゃいませー!」と由花子さんが反応する。

私が顔を上げずにいると、カウンター内の由花子さんが今しがた来たであろう彼に声をかけていた。

「おひとり?お好きなお席どうぞ」

彼は一見するとどこにでもいそうなサラリーマン。
やはり彼が警視庁捜査一課に所属しているなんて、誰も分からないと思う。私だって何も知らなければ、気にも留めなかったであろう。

その小太郎さんは私を見ることもなく、窓際の二人掛けのテーブル席に座るとメニューを眺めていた。

「ご注文はお決まりですか?」
とお冷を出しながら問いかける由花子さんに、悩んだように眉を寄せて答えた。

「ホットサンドセットと…食後にダブルティラミスパンケーキをお願いします。ドリンクはアイスコーヒーでお願いします」

「あらー、甘党ですか?」

「はい」

屈託のない笑顔を由花子さんに向ける小太郎さんを、私は半分呆れたように頬杖をついて見ているしかなかった。