気持ち悪いっていうのをどこまで口にしていいものか、考えあぐねていたといえばよかったのか。ハッキリ言っていいものなのか。
ジムのトレーナーさんなんてみんなあんなものなのかと思っていたから、そこまで危険視していなかった。
少しだけ顔を出した小太郎さんのイヤミ節に、私もイヤミで対抗する。
「すみませんでしたー。以後気をつけますー」
「あ!やっと出たその顔!ようやく美羽さんの本領発揮だね」
全然笑うシーンじゃないのに、彼はとても面白そうに笑っている。
本領発揮って何!?
両手で顔をまさぐっていると、さらにケタケタと笑われた。
「自覚ないんだね。お父さんと話してた時の顔と同じ顔してるよ。そっちの方が君らしいよ。猫かぶらないで、そのままで僕と接してもらえるといいな」
「ね、ね、猫!?小太郎さん!失礼すぎます!!」
「あっ、警視総監には言わないでね。怒られそう」
パッと私から手を離した小太郎さんが、少し距離を置いて両手を顔の横に上げる。
「ついでにレッグプレスのやり方。膝関節保護のために、膝を曲げたときに膝がつま先より上にならないように気をつけて。足で押すというより、お腹の筋肉で押す感じ。それから、ウエイトを押す時には太ももの前側の筋肉を意識して、下ろす時は太もも裏側を意識してみて。すっごい効いてくるから。……じゃ、頑張ってね」
いやいや、余裕でトレーナーさんよりも詳しいじゃない!
というツッコミを入れる前に、彼はひと仕事を終えたとでも言うように背伸びしながら休憩コーナーへと向かっていった。
「いいなぁー!私できれば小太郎さんに教わりたーい!」
どこで見ていたのか、駆け足で私のそばに来た梨花がおめめをハートマークにして小太郎さんを見送っている。
どのあたりでときめいたのかさっばり分からない私は、さっき言われた聞き捨てならない「猫かぶってる」発言に闘志を燃やしたのだった。
許すまじ!!
その闘志を燃料に、彼に教えられたように腹筋に集中しながら、太ももの稼働している部分を意識して足を押し出す。
すると、ゆっくりではあるが押し出したウエイトが持ち上がった。
…非常に、非常ーーーに不本意であるが、教えてくれてありがとう。だけど、色々と許さない。
のほほんと休憩コーナーでスポーツドリンクを飲んでいる後ろ姿を睨んだのだった。



