コトッと置いた、缶のカフェオレ。
さっき下の自販機で買ってきたのだ。
何も言わずに差し出すと、彼はふわっと微笑んだ。

「ありがとう」

彼が缶を開けて、ふと私の手元を見る。

「あれ?錦戸さんもカフェオレなの?」

「なによ、だめなの?」

甘いのが好きなあなたに合わせてるんですけど?
と思いながら私も缶を開けた。

「うーん、普段いつもブラック飲んでない?」

そういうところは見てるんだ。

彼と初めて出会った時。合同捜査で彼と話したいがために我慢して甘いカフェオレを飲んでいた頃と、私は何も変わらない。


「三上くんて、彼女いるの?」

静かな病室に、私の質問がやけに響くように震えた。
こんな歳になっても、恋愛は難しい。

直球のつもりでいたのだが、彼にはそうではなかったらしい。

「えぇ〜…難しい質問してくるね」

ひどく困ったように答えに悩んでいる。
彼女がいるかいないか答えるだけなのに、そんなに難問ではないはずなのだが。

いないでしょう、こんなに仕事が忙しいんだもの。
私だって忙しさを言い訳に恋愛は後回しにしてきた。自分に嘘をついてきた。
気になっていても、そんな素振りは見せないようにしてきた。
この、目の前の男に対して。