私は、三上くんのことを前から知っていた。
話したことも、実はあった。
だけど彼の記憶には残っていないらしい。

本当の出会いは、数年前のとある事件。
世田谷区で起きた強盗殺人事件を、世田谷署と警視庁の刑事部で合同捜査をすることになった時だ。


疲れきったところへ「お疲れ様です」と甘いカフェオレの缶を私にくれたのがきっかけだった。

ブラックしか飲まない私は、きっかけを作ってくれたカフェオレを我慢して飲んで、甘いのが好きな彼に合わせたのを覚えている。

どうしてわざわざ甘いのを我慢してまで彼と話そうとしたのか、いま思えば、あれは淡い恋心だったんだと思う。

────しかし、三上くんは異動してきた時に私に対してハッキリと「はじめまして」と挨拶してきたので、数年前に私と会っていたなんて覚えていなかったのだ。
その時のショックといったら。

明那にも、誰にも言っていないこの気持ちは、一緒に働いているうちに少しずつ大きくなってゆくのだった。

明らかに顔面偏差値の高い近藤くんではなく、どうして三上くんなのか。それは私にも分からない。
ただ、そこにいると目で追ってしまうような存在ではあった。私にとっては。

私も彼も、仕事が忙しい。
だから距離を詰めるなら徐々にでいい────。

恋愛するつもりは“今は”ないが、そのうち、いつか。


そんな悠長なことを考えていたのだ。