その後、二人で手を繋いで同じベッドで寝る。
これに落ち着いた。

────いや、正確に言うと、私の心臓はまったくもって落ち着いてはいないのだが。


「すっぴんの美羽さんもかわいい」

髪を撫でられながらさらりと言われ、私は「は、はあ」と返事にならない返事をした。

スーツではない部屋着姿の彼を見るのは新鮮だったが、特におもてなしもできないなんの変哲もない私の部屋で、二人きりで過ごすのは不思議な感じがする。

小太郎さんが思いついたのは、“怖いなら何もしないから手を繋いで寝ようよ”という、本人いわくナイスアイディアらしいもの。


「美羽さんて、こんなしおらしいキャラじゃないよね?」

狭いベッドなのでくっつく以外にないこの状況で、彼の腕にほぼすっぽりおさまっている。
これがどんなに緊張するのか、まったく分かっていないらしい。

「誘拐された時も、果敢に言い返してたじゃない。とんでもなくかっこよかったよ。惚れ直しちゃった」

ある意味、思い出すと穴に入りたくなる諸々。

「…小太郎さんは意地悪です」

「え!?」

「こんな時にこんな状態でそんな話!ていうか、これで寝られると思います!?ずーっとドキドキしちゃってて、困ってるんです!」

しおらしくもなりますよ!とつけ加えるも、ここは彼も譲らなかった。

「帰ってほしくないって言ったのは美羽さんだよ」

「それはそうなんですけど!」

「僕は幸せだよ。でも僕だけ幸せじゃ意味がない。美羽さんは違うの?」

「────それはもちろん…幸せです」

「じゃあよかった」

ストレートな言葉は、こちらをも素直にさせる。
彼は安堵したような顔をして、優しく、まるで大事なものを扱うように、そっとぎゅっと肩を引き寄せてきた。

眠れなくても、この腕の中なら絶対に安心できる。
たとえ今は緊張していようとも、その緊張はいつしか心地よい緊張に変わるだろう。


「ずーっとずーっと、外でおやすみなさいってさよならするのが寂しかった」

明かりを消した部屋の中で、暗闇に目が慣れてきた。
彼のなんとなく見える顔を見つめて、ふとこの関係になる前の自分を思い出していた。

「おやすみなさいって、外で言うのは寂しい」

「僕もだよ。じゃあこれからは、美羽さんがしたいなら必ずこういうふうに一緒におやすみしようよ」

「小太郎さんのおうちに行ってもいいんですか?」

「もちろんいいよ。ちゃんと本当の僕の家もあるから、今度おいで」

プライベートな姿をほとんど見てこれなかったぶん、この彼の言葉は嬉しい。
こくんとうなずき、繋いだ手をきゅっと握り直した。

これは間違いなく、本当に“幸せ”だ。