彼からしてみれば、きっと“折笠美羽”という人間は理解不能なのかもしれない。
ちっとも分かっていないような顔をしていた。

「手を繋ぐくらいは許されるものかと」

「初めてだって言ってるじゃないですかー!」

「だからこうやってちょっとずつ段階を踏んでるつもりなんだけど、これでも早いの?」

早いですよ!と返すと、難問に悩んでいるような表情を浮かべて「そうなのかあ」と首をかしげるばかりだった。
だからといって手を離すわけではなかったが。


そうしてこんな会話を繰り広げたというのに、マンションの私の部屋の前まで送り届けてくれた直後、小太郎さんは至極真面目なトーンで

「あれ、もしかして帰り際にキスするのもダメ?」

と尋ねてきた。


「だ、だ、ダメに決まってるじゃないですか!あそことあそこ!防犯カメラありますよ!」

カメラを指さして慌てふためいていると、「じゃあ玄関でしようよ」と鍵を出した。

「僕、まだ隣の部屋の鍵を持ってるから」

────これはもしかして、もしかしなくても、父より天然で、父より我が道をゆくタイプなのか?


「もういいです!私の部屋で!」