梨花は長い髪を耳にかけて、にこりと微笑む。
完全にハートを撃ち抜かれた様子の鬼塚さんが、「ッス!」といういつもの謎の返事をして、やっと座ってくれた。


自己紹介をし合っている二人を眺めながら、小太郎さんがちょっと心配そうにつぶやく。

「鬼塚くんがもてあそばれる予感がするのは、僕だけかなあ」

「……うーん、どうでしょう」

出会ったばかりなのに「筋肉触ってもいいですかぁ」なんて言っている梨花も梨花だが。


「美羽」
と、梨花がこそっと耳打ちしてきた。

「ジムの件、仕方ないけど彼の筋肉に免じて許す」

ふふふ、とお互いに笑い合った。


ナポリタンと抹茶のパフェを頼んだ小太郎さんに、私はカウンターの下で手をもじもじさせながら

「もう普通に隣に座ってくれるんですね」

と嬉しさ半分、恥ずかしさ半分で言ってみる。

「うん。だって美羽さんの顔を見て食べた方が、より美味しいでしょ?」

前々から思っていたことだが、彼には照れるというか、そんな感情はないのだろうか。
いつもストレートすぎて、こちらがついていけない時がある。

そんな私をよそに、彼はスマホでなにかを調べながら

「やっと明日休みなんだ。どこか出かけない?」

と尋ねてくる。

「行きたい!」

「スイーツ巡りとか」

「どこにでも行きます。行きたいところに行きましょ。好きなところ」

「調べておくね」


スマホの画面には、都内の有名スイーツがずらりと羅列されているのが見えた。
彼の頭の中は甘いものだらけのようだ。

こんな風に、普通の恋人みたいに、普通にデートの計画を立て、普通に相談できるなんて。
これが求めていた幸せだ。