「ご無沙汰してます。席、空いてますか?」

彼はいつもみたいにスーツを着ていて、ぺこりと由花子さんに挨拶していた。
そしていつもと違うことがひとつ────

小太郎さんの後ろに、鬼塚さんがいたことだ。


「美羽さん、遅くなってごめんね」

「食べ終わっちゃいました」

じつは、もうすでに私と小太郎さんでちゃんと打ち合わせは済ませていた。
梨花に話してもこうなることは予想していたので、しっかり手は打っておいたのだ。

「カウンターでよかったらどうぞ」

という由花子さんに促され、小太郎さんは自然に私の隣に座る。
しかし、鬼塚さんはドアに挟まったまま動かない。
身体が大きすぎて通れないとかじゃなく、あえて挟まっているように見える。

そして顔を半分覗かせたまま、こちらをじっと見ていた。

「あの、あの、自分、こういう小洒落たお店は入ったことがなく!どうしたら!」

「………………隣、どうぞ」

梨花が自分の隣のイスを引き、鬼塚さんを手招きする。
それを合図に、彼はようやく店内に入ってきてくれた。


「し、しかし!こんなお綺麗な方のお隣というわけには!身分が違いすぎます!」

面白すぎる返しをしている鬼塚さんに、思わず吹き出してしまう。
綺麗だと言われて嫌な女性はいないはずだ。
それがお世辞ではないことは、彼の素朴な人柄がすぐに見て分かるからだ。

「どうぞって言ってる時は、なにも言わず座るのがベターなんですよ」